2005年01月20日

ヤツとの再会2

テノール野村。

私のコンビニ感を変えた彼に私は「ファン心理」に似た憧れを持っているのです。
そっけない接客、あるいは客と従業員のクールな関係に深夜の安らぎを求めていた私にガツンとカルチャーショックを与えたテノール野村。

過剰な笑顔、良く通るテノールで発せられる美しい日本語の響き。
お客様の心理を読んでしつこく繰り返されるコーディネート販売(時々的はずれですが)。
踊るように手先まできちんと神経の行き届いた所作、そして時折見せるフェミニンな仕草もチャーミング。
彼にかかればコンビニは最上級のホテルに劣らぬ最上のサービス空間であり、ショウパブ顔負けのステージであるのです。

そんなうちの近所のセブンイレブンのスターはいつしか深夜からお昼のバイトに変わっており、その際はタモリが「笑っていいとも」で昼の顔から全国の顔へと昇格したような一抹の寂しさを感じたモノです。そんな彼もいつからかフっと姿を消してしまった。

そして新しい年、2005年1月20日未明に突如としてヤマザキデイリーストアに現れたのです。これを驚愕せずに何に驚愕しましょう。

ときめきました。彼は引退ではなく移籍をしていたのだけだと思うと、神にすら感謝したくなりました

しかし。
彼を目撃した瞬間私は目眩にも似たとまどいを感じました。彼にはあのオーラが感じられない。
正確に言えばオフステージのテノール野村。かつてダイエー福重店で目撃した彼と同じように見えたのです。

まず気が付いたのはルックスが激変していました。髪の毛が金色に近くなっているのです。


ああ、純朴なハズの彼が。

ルックス的に例えれば昨日まで田口正浩田口正浩っていうんだよだったのに、今日会ったらハチミツ二郎東京ダイナマイトって知ってる?になっていたくらいショックです(誰なんだよ)。

しかも心なしか全身から「憂い」のようなオーラを発しており、いよいよハチミツ二郎にっ(って誰だって)。
似つかわしくない。テノールはステージでは決して「憂い」などとは無縁の存在のハズなのです。だって彼は便所の100ワット。

私はちょっと嫌な予感がしました。
セブンイレブン時代からすでに彼には転落の兆候が見え始めていたのです。つまりは普通にっ(普通じゃねえか)。

そんな不安を胸にラーメンコーナーなど見ていると、でっかいトラックが店の前に止まりいかにも運ちゃん風の兄さん2人が店内に入ってきました。
おおっ。ついにテノール2005年モデルの真価が問われます!

「しゃっせー」

ああっ、しゃっせーっ(涙)。しゃっせーが来てしまった。
私内では「コンビニ挨拶」と呼ばれるこの挨拶。深夜のコンビニに合います。「しゃっせー(↓)」と低めの声でつぶやくように語尾をさらに落とすとお客様の脳で「いらっしゃいませ」に構成されるのです。丁寧に言う場合は「らっしゃっせー」というのです

テノール墜ちたか!

そう思わずにはいられません(とめどなく流れる涙)がおー。
私の好きなテノール野村は「いらっしゃいませえ」と、聞きたくもないのに語尾がはっきりしたNHKアナウンサーみたいな人なのです。違う。テノール違うっ!それではバリトン。いやバスだっ!

さらにその兄ちゃんたちが弁当やらお茶のペットボトルやら山ほどもってレジに向かっても、お得意の無差別コーディネート販売が。ない。

おーのぉぅぅぅうぅぅぅっ!

さらに私の耳に信じられない言葉が。「温めて」と。
「温めて」だとぅっ!コンビニの基本、機械ですら言いそうな基本中の基本「温めますか?」すら客に先に言わせたのかっ!

まいがぁぁぁぁぁぁぁっ!

親愛なる読者諸君。
残念ながらこのテノール、いやバス野村(運転手かよ)には私の愛する、あなたの愛するテノール野村とはもはや別人。残念ながらもうかれは稀代のエンターテナーではないのです。残念ながら、あ、涙が出そう(どんだけ好きかよ)。

へいめぇぇぇぇぇぇぇぇん(これは意味がない)。

セブンイレブンからヤマザキへ。二軍落ちのようではないですか(いや個人的な範囲で)いかにもそんなカンジではないですかっ。

でも私は思ったのです。
これは早朝、眠気もピーク。彼も油断しているのでわと。いやそうでなくとも私が自ら彼に対峙する必要があるでしょう。

私はわざわざ食べたくもない「ミニ麻婆丼(380円)」と「お~いお茶」を手に持ってレジに向かいました。
無論、コーディネート販売しやすいようにですたい。

レジの彼は私にそのまん丸な背中を向けて洗い物などしているのです。
テノールよ。舞え。そこで見事なターンを見せるのだ。
彼は肩越しに私を認めると手をフキフキしながら「らっさっせ」といいながら向き直りました。

普通だ。

彼は私をかつての常連と覚えているのでしょうか。その伏し目がちな表情から伺うことはできません。あ、お弁当を手に取った。

「あたためますか?」

ああ、さっきはお客さんの方が気が早かったのだ。よかった。しかしその「あたためますか」さえ昔は「あたためますかぁ?(↑)」と笑顔と小首でこじんまりとキュートに決めたのに。やはり残念なことになっているのだ。

しかし。しかしだそこでテノール、俺様の弁当は小さいじゃないか。そこでキミがやらねばならないのは。

「520円ですねー」

ちがーう。
そこは「あつあつのおでんはいかがですか?」じゃあないのかっ!(号泣)。志村横横っ!

私は絶望のどん底にたたき落とされたような気分です。悲しいです。かあちゃん俺は悲しいぜ。

「この前までセブンイレブンにいたよね?」
私はついに彼に話しかけたのです。いや、何度かは会話を交わしたことはあるのですが、基本的に演者と観客の立場ですので(どんなんだ)それほど親しく会話したことはあんまりないのです。それは彼女に恋心を打ち明けるほどに勇気がいることではないですか。

彼は袋に詰めながらチラと私の顔を見ました。やはりその心理は読みとれませんが。
「はぁい。・・・この辺に住んでらっしゃるんですか?」
と、普通のテノールが普通に聞くのです

「うん、すぐそこ」
ああ、切ない。テノールふつーになっちゃったのね。

それきり無言で袋を取り、失意のまま帰ろうとしたのですが肝心の煙草を忘れていたのを思い出したのです。

「あのーフィリップモリススーパーライトを2つ」
するとふつーのテノールがふつーに背中を向けて、イキナリ振り返りました。

「お・ふ・たつ・で、よろしいですか?」
微かに右手がピースになって胸の下あたりにさがっておりますが、微妙に小首をかしげたおやかな笑顔でそう言うではないですか。そこには微かに「テノール野村」の痕跡がっ!
感動(涙)。

ああっテノールなのだこの人はテノール野村ではあったのだ。と私はほおを伝う涙を隠すことができませんでした(いや、流しちゃいません)。

私は今日のテノールはオフステージなのだと思うのです。イヤいずれ必ずやテノール復活を皆様にご報告できると固く信じております。(家から3分だし)

カムバック・テノール・ライク・ア・サーモンっ!

 

(感動的に終わらせようとしてしくじる俺)


 

 

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